top


[鬼平座]

 

鬼平の登場人物はそれぞれ個性的で魅力的です。

ここは家主贔屓の相模の彦十を筆頭に

それぞれの人柄が知れる、台詞を集めました。

あくまで家主のお気に入りの台詞集です。

 


色付きが主役の台詞

主要

盗人

 

鬼平座常連


 

 

 

 

 

 

a

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪友五郎≫

■一の巻■

鬼平を驚かせた遊びを粂八に語る 

 

 

「とっつぁん。ちかごろの江戸ではろくなお盗めもできねえ、

鬼の平蔵の眼が,ああも光っていちゃあ」

 

「ふ、ふん・・」

 

「へ、へへ・・・・」

「とっつぁん。どうしなすった?」

「お前のことだから、うちあけちまおう、かな・・・」

「おらあね、粂さん、鬼の平蔵に勝ったよ」

「えっ・・・・・・・?」

「あんまり鬼平の評判が高えものだから、むらむらっと、

むかしの盗人根性があたまをもちあげやがってね」

「ふむ、ふむ・・・・」

 

「おらあ、この間、盗賊改メの役宅の、鬼の平蔵が寝ているところへ忍び込んだよ」

「ま、まさか・・・」

「ほんとうさ。役宅の間取りをさぐり出すのに三月はかかったが、

・・・・・うまく忍びこんで、寝間の戸棚にあった、この煙管を盗んできやがった」

「へっ。鬼の平蔵などといっても大(てえ)したことはねえ。

ぐうぐうねむっていて、おれが出て行くまで、すこしも気づかねえ。

あんなのが威張っているのは、いまの盗人どもがだらしがねえからよ

へっ、へ、へへ・・・・」

 

■二の巻■

ある日の大川にて 

 

 

大川に舟ででたある日。舟ばたをたたき、

「おう。隠居、お前も丈夫で結構だなあ」

鯉が月光りに目を光らせこちらを見返す。

 

川水を切っていく鯉の背びれが舟ばたを離れる

「おう。隠居、もう帰るのか・・・・・じゃあまたな。さよなら、よ」

 

鬼平犯科帳/6巻「大川の隠居」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<雨乞い庄右衛門>

■一の巻■

引退を決意した庄右衛門老人は最後のお盗めを決意する

 

(しずかに、あの世へ旅立つ日を待ちてえ)

 

(もう、わしは女の肌に用のねえ躰になってしまったのだものなあ。

こんな爺の身のまわりの世話をやかせるだけなら、お照に気の毒だ)

 

(その、山崎屋から盗った金は、手下の者たちへたっぷりと分けてやろう。

なに、わしは、五十両あれば、その金を使い切れねえうちに、

あの世へ旅立っていることだろうよ。

それにしても、たのしみな・・・・・

山崎屋という油問屋は深川でもきこえた大金持ち。

それによ、わしたち盗人も手が出せねえように、戸締りの仕掛けも念入りだそうな。

そこがおもしろい。やり甲斐がある。

それにさ。四年前まではきいたこともなかった

長谷川平蔵とやらいう盗賊改メの取締りがきびしく、

盗人どもはちぢみあがっているらしい。そこがおもしろい。

ま、見ていてもらおうかえ。その鬼の平蔵の鼻を、この雨乞いの庄右衛門が、

きっと明かしてやろうじゃねえか・・・・・・・)

鬼平犯科帳/7巻「雨乞い庄右衛門」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<岸井左馬之助>

■一の巻■

 

「馬でおはこびは珍しいな。小田原の帰りか」

「何か、あったな?」

 

「あったとも」

「ほう・・・・威張るではないか」

「おれはこれでも、お前さんの御役目をたすけているつもりなのだ」

 

 

■一の巻■

 

「左馬、おぬし、上出来だ。たびたびのお手柄ゆえ、ほうびを出さねばなるまいな。」

「さ、うけとってもらいたい」

 

「ばかな」

「金ずくでしているのではない。平蔵さんが、このようにおれをあつかうのは、

どうも、おもしろくない」

「ふ、ふふ・・・。いい年をして、むかしのままだのう」

「むかしのままで悪かったら、つき合ってもらわんでもいい」

「怒るな、これ・・・・おれは、おれの気もちとして、ほうびを・・・」

「金なぞ、いらん」

「ならば、どのようなほうびなれば受けてくれるか?」

「どうしても、ほうびをくれたいのかね」

「ああ、さしあげたいな」

「どんなものをねだっても、よろしいかね」

「ああ、いいとも」

「では、申しあげよう」

「よし」

「武士に二言はありませんな」

「ないとも。ただし、亡き父の遺品(かたみ)だけは困る」

「よろしい」

「さ、いってごらん」

「国貞の一刀を、いただきたい」

「な、なに・・・・・」

平蔵はあわてた。和泉守国貞二尺三寸五分は、平蔵が愛してやまぬ一振りなのである。

「さ、武士の一言」

「よ、よし。仕方もないことだ」

傍にいる久栄に

「こなたの殿さま。泣き出しそうな顔してござる」

久栄が、笑い出した

鬼平犯科帳/7巻「雨乞い庄右衛門」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<森為之助こと利兵衛>

武士で鶴やの亭主

 

■一の巻■

 

 

「この仁は、むかし、私めが国もとで討ち果たしましたる

金子七平の息、半四郎にござる」

 

「敵討ちも武士のならいならば、返り討ちも武士のならいでござる」

 

「いかが」

 

鬼平犯科帳/1巻「暗剣白梅香」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<松岡重兵衛>

剣士らしい盗賊

 

■一の巻■

 

 

20年前・・・

平蔵と左馬之助は彦十に誘われ盗賊の手伝いをする事に

黒装束に顔を隠した平蔵たち

 

「さ、早く乗れ」

長谷川平蔵の声をききつけた盗賊の一人が、

いきなり平蔵の顔をおおっていた布を引きめくった。

 

 

「何をしやがる」

「だまれ、長谷川」

盗賊は、みずから覆面を外す。

 

「あっ・・・・・・」

 

「ま、松岡先生・・・・・・」

「そうだ」

 

「きさまら。こんなまねをして何がおもしろい。

高杉先生が、このことを知ったらなんとおもわれる。ばかものめ!!」

 

いうや平蔵と左馬之助のえりがみをつかんで、

岸辺へ引きずり出し、ぽかりぽかりとなぐりつけた。

 

 

 

大川の闇の底から

「平蔵、左馬。高杉先生をたいせつに、な」

 

 

 

 

鬼平犯科帳/7巻「泥鰌の和助始末」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜兎の角右衛門 》

伝説の人

■一の巻■

 

「とっつぁん。では、たのむ。七年前のあの夜、駿府の大和屋の堀外で見張りをしていたのは名草の網六だ。

おぼえているな」

「へえ。たしかに網六・・・・・」

「くちなわの平十郎どんからたのまれて、あのときはじめて網六を手下につかったのだが・・・・・

やっぱりとっつぁん。あいつはむごいところのあるやつだった。」

「網六は、いま備前の下津井に隠れているはずだがね、二代目」

「おれは、もう二代目じゃねえ」

「へえ・・・・・」

「昨夜、家へ帰り、女房子には因果をふくめてきた。

かきあつめた金は全部で百八十両二分。このうち五十両は、おしんにやった。残りの・・・・」

「これを、みんなで分けてくんねえ」

「じゃあ、これが、お別れで」

「いうまでもねえ。先代ゆずりの掟を手下が破ったのだ。

なんおかかわりあいもねえ女の腕を切り落とすなんて畜生め・・・・・・

こうなっては、もう、晴れて盗みもできゃしねえ。

とっつぁん、夜兎の角右衛門は盗人の面よごしになってしまったよ」

夜兎は傍目もふらずに火付盗賊改方頭領・長谷川平蔵の役宅へ自首して出た。

 

 

■二の巻■


平蔵と夜兎の角右衛門



鬼平犯科帳にはあまり登場しないが、角右衛門の事はにっぽん怪盗伝で詳しく描かれている。

角右衛門は捨て子で浜松の旅籠で先代に拾われる。それから先代と妻・お栄によって本格派の盗賊として立派に育つ。先代が死んだ後も決して盗賊の掟を破る事なく、41歳の年を迎える。この寛政元年に、乞食女に出会った事から、一度借り受けた蛇一味の名草の網六が、夜兎の看板を汚した事を知り自首した角右衛門はその後牢に二年入り、密偵として働く。

密偵としての活躍は華々しく、葵小僧、追捕の際にも惜しみない協力をし、くちなわの平十郎一味捕縛の際には捕り手たちを先導し、捕縛を迅速に導く。その後平蔵が幕府に付けさせた人足寄場ができると、寄場に住み込み、送られてくる軽罪の犯罪者たちの面倒をよく見たらしい。たまさかに姿を消すと犯罪者たちは「また大きな手入れがある」と囁く。


平蔵の信頼は熱く、昔仲間のくちなわの平十郎逮捕の際に惜しみなく力を貸してくれた角右衛門への想いは並々ならぬものがある。

「お前が出向いてくれれば、もう、安心だ。たのむぞ」


角右衛門の住居の移動は激しい。まず回向院裏で小間物屋をひらき、後に人足寄場に住み、次には横網町の河岸で小料理屋の亭主におさまり、奉公人も置いている。

角右衛門にはおしんという女房と子供がい、自首してからは家族のまつ〔すすきや〕に帰らぬまま、昔仲間の恨みの刃に倒れる。寛政7年のこと。

長谷川平蔵は、角右衛門の骨の一部を庭へ埋め、〔角右衛門稲荷〕として祠をつくり、朝夕の礼拝をつづけた。同年5月、心臓の発作を起こした長谷川平蔵はぎりぎりまで火盗に尽くし世を去っていく。
角右衛門48の年、平蔵51の年である。





「にっぽん怪盗伝」

 

 

 

 

三次郎 》

*皆を見守り続ける陽気な五鉄の大黒柱*

 

 

事件が片付いて食事に行こうとする彦十、おまさ、平蔵

 

 

「夕暮れどきにも汗ばむほどでは、しゃも鍋でもあるまい。」

「へっ、鉄つぁんの旦那は、いまごろの軍鶏がどんなに効くか知らねえな」

「たまにゃあ、奥方さまへ立ち向こう力がつこうというものでございますぜ」

「そんなこたあ三よ。おらあもう、何をどうしたらいいものかすっかり忘れてしまったよ」

女房・おさいの耳へ聞こえよがしに

「三よ。長谷川平蔵もそのことにかけちゃあ、お前の足もとにおよばねえわさ。

そんなにでっぷりとしたいい女房と、五人もの子がいるお前が、いい年をして本所から、

わざわざ上野山下のけころ(娼婦)をまめに買いに行こうという・・・」

「だ、旦那、旦那。いってえ、なにをおっしゃるんでござんすよ」

 

 

じじくさくなった平蔵の事を語る。

 

「まったくいやになっちまわあ。あの銕つぁんが、砂糖をぶっかけた白玉を三杯も・・・

てっ。あきれ返ってものもいえねえ」

 

6巻「剣客」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一代目・狐火の勇五郎

*大盗たる大盗*

 

 

京都に本拠を置き、正妻と妾宅を持ちそれぞれ子供を一人ずつ、

さらに江戸にも妾。盗めが終わると江戸に来ては、鶴の忠助、彦十、平蔵たち

にも金を振る舞い、大いに遊ぶ。

 

 

ある日

平蔵が、先代狐火の勇五郎の妾お静に手をだしてしまって、

「お前さんは、武家方のお子だ。

人のもちものを盗っちゃあいけねえ。

盗人のおれが、こんなことをいうのはおかしいようなものだが、

お前さんだからいうのさ。人の持ちものでも、

金ならゆるせる、だがねえ、女はいけませんよ」

 

 

 

 

6巻「狐火」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鴨田の善吉

*忠実で暖かい配下*

 

 

大盗・鈴鹿の又兵衛の娘が何と盗賊改メの同心と恋仲に。

 

 

「実はな、善さん。近いうちにわしは、

急ぎ盗をやって江戸を引きはらうつもりなのだ。

むろんきっぱりと足を洗い、お雪を引き取る」

 

「そいつは義兄さん、けっこうなことだ」

「けれども、そのためには、どうしてもおさめ金を・・・・」

「また、とんでもねえとき、とんでもねえ男に、お雪は惚れたものだ」

 

「よし、こうなったら・・・・」

 

「私が、お雪をつれて、姿をかくしましょう」

「そいつはいけねえ。せっかくお前、小さいながらも足袋屋の主人に」

「なあに、かまいません。義兄さんが足を洗ってくれるなら、そのとき一緒に、

ちからを合せ、京か大坂で小さな店を、はじめっからやり直すのもおもしろうござんす」

 

「善さん、お前、そこまで・・・・」

 

「義兄さんに・・・いえお頭には、私も、死んだ姉もひとかたならねえお世話をかけました。

これほどのことは何でもねえ。それよりも私は、お前さんが足を洗っておくんなさるという、

この一事がうれしくてたまらねえのだ」

 

「私が、お雪を連れて江戸を出た後で、こころおきなくお盗をしておくんなせえ」

「たのんだよ」

 

 

 

 

 

6巻「狐火」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊三次

*皆の気持ちを軽くする若くて頼もしい密偵*

 

■一の巻■

 

平蔵と密偵のみの探索に不信を抱いた忠吾

 

「おれにだけはなしてくれ。いったい、何があったのだ?」

「それがさ、木村の旦那。御頭さまが目黒に隠し女をかこっておいでになり、

その女のお腹が大きくなりはじめたので、いろいろとその、私どもが

はたらいているわけなんでございますよ」

 

「ばか!」

「へっ。だから、とてもいそがしいので。それじゃあ旦那。ごめんなすって・・・・」

 

 

 

■二の巻■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つきすすめ九兵衛

下氏九兵衛と長谷川平蔵>

 

尾行中の平蔵に

「もし・・・・もし、卒じながら・・・・」

「何か、御用か?」

 

「拙者、名は下氏九兵衛。近江・彦根の浪人にて、いささか剣をまなび、流儀は、東軍流」

「うけたまわった」

「私は、いささか急ぎの事がありましてな。ま、ごめん下さい」

 

「ぜひにも。一手、お教えをたまわりたい」

「何の教え・・・・・?」

「申すまでもないことでござる」

「拙者。昨夕、そこもとが松林の中の草原にて、

どうやら御子息とおぼしき若者と剣術の稽古をなされたる御様子を、とくと拝見つかまつった」

「それは、それは・・・・」

あきれ、いらだちはじめる平蔵

「まことにもって、すばらしき御手なみでござった。拙者、あまりにぶしつけと存じ、

これまで何度もためらいましたが・・・・やはり、おもいきれませぬ。

昨夜は知人の家に泊まり、今朝、そこもとが御屋敷を出られるのを待って、此処までお供つかまつった。

場所は、もそっと広いところがよろしかろう。ぜひとも一手、御指南にあずかりたい」

 

「私は、火付盗賊改方を相つとめる長谷川平蔵と申す」

「さようでござるか。さ、この木刀をお取りなされ」

「どけい!!」

「いや退かぬ。尋常に、お立ち合いなされ!!」

「こいつ。よほどの気狂いと見える」

「何と・・・・気狂い、と申されたな」

「そのとおりだ。ばかめ!!」

「うぬ!!」

「立合いなされ!!」

 

九兵衛は木刀を投げられ峰打ちとされ倒れる。。。

 

 

(あの間抜け浪人があらわれなんだら、見逃しはしなかったものを・・・・)

 

(それにしても、先刻のあの浪人・・・いまどき、あのように時代ばなれした、武者修行の剣客がいるとは。な・・・・)

(めずらしいやつじゃ)

と、ここは平蔵も好きな道だけに、知らず知らず微笑が浮かぶ

 

そしてちょうど上手い具合にまた尾行していた甚五郎が現れ・・・・

 

「待てい!!」

大声がきこえた

 

「尋常に立ち合わぬとは無礼千万!!」

「抜けい!!」

 

「ばかもの」

「な、なんだと・・・ばかと申したな、ばかと・・・・」

「叱っ・・・・」

「おのれ、逃げるか!!」

「む・・・・・」

「待てい!!」

「や、やぁっ!!」

 

「たぁっ!!」

 

「斬るぞ」

「うぬ。来い!!」

 

「やぁ!!」

「鋭!!」

 

「むぅ・・・・・・」

 

 

鬼平犯科帳/10巻「追跡」

 

 

 


















舟形の宗平

 

「欲得の盗みではなく、老いて果てた、おのれの躰の中に、

まだ残っていた盗めの血が騒いだというわけか・・・」

「さようでございますね」

「ときに宗平」

「へ・・・・?」

「お前はどうじゃ。まだ、むかしの盗みの血が、さわぐことはないかな?」

「人にもよりましょうが・・・・」

「お前のことだ」

「さよう・・・・・・」

 

「そりゃぁ、ときには、血がさわぐこともございますよ」

 

そういったものだ。

その、無類に正直な宗平の言葉が、長谷川平蔵にとっては、

まことにうれしく、たのもしく聞こえたのである。

 

鬼平犯科帳/11巻「穴」より