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老いても相模の彦十でえ!平蔵の親友で、忠実な部下老密偵相模の彦十
一の巻
「くれぐれもまあちゃんのことをたのみましたぜ」
「くどい爺(じじい)だの」
二の巻
「すっかり、暖かくなりやしたね」
「お前は、生まれて何度目の春を迎えることになるんだ?」
「そんな、面倒くせえことを考えている暇はござんせんよ」
「ときに、井関の録のやつは相変わらずでごぜえますねえ」
と、彦十め、遠慮会釈もない口をきくのである。
三の巻
「こいつは彦十どん。大捕物らしいね?」
「それなのによ、この御役宅へ寝転んでいるなんて、まったくどうも、長谷川様も罪なお方ではねえか」
「友五郎どん。銕公は、きっと、おれなんざ爺だから役に立たねえとおもっていやがるにちげえねえよう」
「そ、その銕公というなあ、だれだね?」
「いまの長谷川平蔵よ」
「へへえ・・・お前、凄え口をきくね」
「あたりめえよ。野郎が若いときを、おらあ、よく知っているんだ。むかしは本所の銕とか何とかいわれて、
そりゃもう手がつけられねえ暴れ馬だったのだよう」
四の巻
平蔵の策略でくっついた五郎蔵とおまさ、そんな平蔵の気持ちを知らず慌てふためく彦十
「どうした彦十、血相を変えて。なけなしの一張羅を鼠にでもさらわれたか」
「じょ、冗談じゃねえ」
「では、むかしむかしの色女が墓場の中から迎えに来たかえ?」
「な、何をいってなさるんだよう、銕つぁん。それどころじゃあねえ、まあちゃんが・・・・おまさが大滝の五郎蔵どんと・・・」
「五郎蔵とおまさが出来たというのか。どうだ、図星だろう」
眼を白黒させる彦十
「あは、はは・・・」
五の巻
どうもやる気のない彦十
平蔵に叩き起こされる彦十
「銕つぁん。年寄りをいじめるものじゃあごぜえやせんよう」
「年寄りは早起きにきまっている。さ、起きろ、起きろ。お上の御用だ」
「そんなもなあ、どうだってようござんす」
大分やる気がない
「いいかげんにしねえか
「愚図々々していやあがると、切り刻んで味噌汁の実にしてしまうぞ」
「じょ、冗談じゃあねえ。へい、起きますよ。起きりゃあいいんでがしょう」
としぶしぶだが、探索金として2分ももらうと元気に探索に出かける。
結局このあと平蔵の警告にも関わらず飲み過ぎて寝込むことに。
〔五鉄〕の前で賊を発見し、急遽尾行を開始する彦十はお熊を手招き
「何だよう。くたばりぞこないが、色目なんぞ遣やあがって・・・・・」
「しずかにしろ。鉄つぁんの御用だぞ」
「おらあ、あいつを尾けてるんだ、このことをな、五鉄の亭主へ知らせてくれ。たのむぜ、破れ凧の歯ぬけ婆あ」
(てっ。何てえこった。何も、婆あにたのまなくとも、おれが三次郎へ声をかけておきゃあよかったのだ。どうも、こんなに惚けちゃあ、行先も長くはねえ)
尾行しながら、笠の内で彦十は、ぶつぶつと自分への不満を洩らしている。
18巻「蛇苺」
ある時は・・・
さすが見る目の彦十は
18巻「一寸の虫」では
山崎同心を指して
「あの旦那は陰へまわって、何をしているか知れたもんじゃねえ。御役目を笠に着て、うめえこと甘い汁を吸っているかも知れねえぜ」
八の巻
またまた彦十の目の冴えどころ。
「ねえ、銕つぁん・・・」
「どうやら七蔵は、独りばたらきをするつもりらしく、病を押して・・・盗めの場所を探し回っておりやすよ。
それがさ、尻を押さえてびっこをひきひき・・
どうも野郎、ひどく痔が悪いらしいので」
「痔もちの盗人か、それはおもしろい」
「それでね、銕つぁん。野郎、なかなかふんぎりがつかねえようだ」
「ありゃ何だね。牛尾の太兵衛のところにいた盗人だというけれども、ろくな盗めをしてはいませんぜ。
せいぜい、田舎の盗人宿の番人ぐれえなところで」
と、さすが彦十の眼は老いてもくもっていない。
彦十とおまさ
血は繋がっていなくとも親子より深い絆で繋がっとります。
「あたしの眼に狂いはない。とにかく、あたしはあいつに顔を見知られている。だから、
おじさんが後をつけておくんなさい。」
「よし、わかった」
「すこし、こころ細いけど・・・・いまとなっちゃあ、おじさんよりほかに・・・・」
「ふざけるねえ。年は老っても相模の彦十だ」
「見得をきるのは、あとにしておくんなさいよ」
鬼平犯科帳/6巻「剣客」
九の巻
休み中に呼ばれた彦十
「冗談じゃござんせんよ。寝ていいというから、
一杯(いっぺえ)引っかけて寝床へもぐり込んだら松永の旦那に叩き起こされちまった・・・・」
「文句をいうな」
「おお、おっかねえ」
「役宅まで、駕籠へ乗って行け。この手紙を佐嶋へわたして来い」
「駕籠へ乗らなかったら、どうなるので?」
「駕籠より速く役宅へ着けるか?」
「着けますとも」
「それなら、仕舞っておけ」
「ありがてえ」
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長官を心から崇拝する忠実?な部下
一の巻
「いや、どうも、まことにす早いやつでございまして・・・感づかれたとは、
おもってもおりませんでしたが、深川八幡の境内の人ごみの中で、見事に、
まかれてしまいました。
はっはっ・・・・・申しわけもございません。まことに忠吾、お叱りをうけまして
返すことばもありませぬ。はっ、は・・・・・?
それが一度も編笠をぬぎませんので、顔を見きわめることはできませんでしたが、
あの躰つき、風采からおして見て、年齢ごろは四十五、六歳ではないかと・・・
はっ、それはもう、私の眼から見ましても寸分のすきもない躰のこなしにて、
あれはまさに、なみなみならぬ剣術つかいかと・・・・・」
「ふ・・・剣術つかい、はよかったな」
忠吾にかかっては、平蔵もきびしい叱責ができにくくなってしまう。
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「剣の試合の意趣遺恨は、根深いものよ」
「ははあ・・・・・」
「お前もな、いますこし剣術の修行をすればわかってくる、と申しても仕方がないか。
お前ときたら剣術をするひまがあるなら、岡場所で白粉のにおいを嗅ぎたいというやつだ」
「恐れ入ります」
「だが、それもよい。火盗改メには岡場所にくわしいやつも役に立つことがあるゆえ、な」
「そこのところをおくみとり下さいますとは・・・・はっ、はっ。
忠吾まことにうれしく存じ・・・」
「ばかもの。つけあがるな」
「へへっ・・・・・」
6巻「剣客」
二の巻
四話目でやっと見張りに抜擢され、巡回中に女の行水を垣根越しに盗み見るときの目つきとは大分に違う、
ぎらぎらとした目をしている。。。などと書かれる。
町人姿の忠吾はとてもよく似合う
「お似合いでございますなあ・・・」
「そうか、似合うか」
「まったく、もって・・・」
「何に見える?」
「うちの旦那の若いころに、そっくりで・・・」
「ばか」
「ごめん下さいまし」
「平野屋の若いころといえば、盗賊ではないか。いいかげんいしろ」
ぶつぶついいながら・・・・・・
三の巻
腕っ節が強いと聞いた盗賊・関沢の乙吉の捕物を思案し、平蔵は
「関沢の乙吉は、めっぽう、腕っぷしが強いのだそうでございます」
「ほほう・・・」
「そうか、よし」
「おい、忠吾」
「は・・・・・・」
「関沢の乙吉は、腕っぷしが強いそうな」
「ははあ・・・・」
「お前、ひとつ、取っ組み合って見ろ」
「あ・・・・私ひとりで?」
「当たり前だ。いやしくも盗賊改メの同心ではないか。久しぶりに汗をながして見ろ」
「ほかに・・・・あの、だれか・・・・」
「ばか。相手は一人だ。おれが見ていてやる。ただし、きさまが乙吉の匕首で突き殺されても知らぬぞ」
「それは、あまりにも殺生でございます」
「さ、行こう。おれとお前と二人で行こう」
「は・・・・」
もちろんこの後散々な目に合うのでした。
鬼平犯科帳/9巻「泥亀」
三の巻
平蔵が毒入りを案じて、食事を鼠に食べさす。その鼠の安否を確かめるために忠吾は役宅の庭を日夜鼠探しに奮戦する。
「盗賊どもが、おれの食い物をつくる男を脅しているとなれば、こいつ、だれが見ても毒殺さ。あは、はは・・」
「そうか・・・・」
「それから毎日、おりゃな、左馬之助。勘公のこしらえたものを鼠に食べさせたよ」
「ほう・・・・」
「その鼠をな、木村忠吾のたつが一生懸命に捕らえて来てくれてな」
「あは、はは・・・・・そいつはおもしろい」
と左馬之助と笑われる健気な忠吾。
鬼平犯科帳/9巻「白い粉」
伊三次が死んでしまった
「おい。きさまが刺した伊三次は、すっかり元気になったぞ」
「えっ・・・・・・」
「そ、そんなはずはねえ。そんなはずはねえ。」
「はずがなくとも、生きているのだ。」
「きさまが冥土へ旅立つ前に、このことをぜひとも聞かせてやりたかったのだ。
きさまごときに伊三次が殺されてたまるものか!!」
四の巻
男色盗賊・寺内武兵衛に浚われた忠吾は無事救出される。
「どうした?」
「役宅内の、私についてのうわさを、お聞きおよびでございましょう?」
「うわさ、な・・・」
「わ、私は・・・・」
「どうした?」
「私は、操を、まもりぬきました。まことでございます。」
「知れたことよ。おれには、すぐわかった」
鬼平犯科帳/11巻「男色一本饂飩」
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一の巻
八年前に深くにも刺客の殺気を見落とし、後ろから切りつけられたことを悔しそうに語る。
「・・・・酔ってもいたし、ひとりぼっちで、ふところには一文もなしに
江戸へ帰るさみしさに胸をかまれていて、私は、ぼんやりしていたのですよ、平蔵さん・・・」
「ほう・・・・お前にも、そうしたところがあったのかな、
さびしいなどという気持ちになったことがあったとは・・・・・は、はは・・・・・」
「平蔵さん、からかってはいけませんな」
「いや、ゆるせ。お前のような人ほど、人のこころのさびしさがわかるものなのだ」
「今度は、照れくさいね」
「どうも、めんどうな奴だな、お前も・・・」
「ともかく、私ぁね、あいつに背中を斬られたのがくやしい。
くやしくてならねえのですよ。向こう疵なら死んでもいいが・・・」
この後犬のクマに助けられ平蔵は録之助の無念を晴らす。
本門寺には雪が降り積もる・・。
この話はまだ続く・・
[凄い奴]に蹴倒された録之助は目を覚ます。
「へ、平・・・・」
「なんだ、しっかりしろ!!」
「あの、野郎は・・・・・・?」
「おれが斬った」
「う・・・・」
録之助目を閉じ
「やっぱり、凄え・・・・」
「何がだ?」
「平蔵さんが、ですよ」
平蔵が泪を流しながら危機を救ってくれた柴犬のクマを
抱きしめていると
「や、やっぱり、凄え・・・・」
「録之助。凄いのは、この犬だよ」
「ああ、やっぱり・・・・・・」
直後禄之助はまた気を失っている。安心したためかと、本文にはある。
鬼平犯科帳/「本門寺暮雪」
二の巻
たまたま外で用を足していたために五郎蔵の危急を救う
「おれは、いつも外でやりつけているので、家の中の厠では出るものも気持ちよく出ないのだよ。あは、は、はは・・・・」
三の巻
「録之助。お前は、五郎蔵の命の恩人じゃ・・・」
「へ、へへ・・・」
「江戸をはなれていたとな」
「はい、旅はようござんすよ、平蔵さん」
「生臭坊主め、諸方で、さんざんに悪いことをしてまいったのであろう」
四の巻
「清水、源兵衛」
「それなら、おれも知っている」
「何じゃと?録。まことか?」
「ええ、知ってますよ。
私は、本所の高杉先生の門人となる前に・・・・
つまり、子供の・・・湯島六丁目で一刀流の道場を・・・・・
このことは平蔵さんにもはなしましたよ」
「そうであったか、な・・」
「そうですとも」
「ふむ。それで?」
「ところが、死んだ親父が・・・・
めずらしく親父らしいことを・・・・
したがって、・・・
それで・・・
あなたや岸井さんに
じっこんにしていただいたと、
こういうわけなので・・」
「どうも、お前は、むかしから口が多いな」
「ですから、その菊地道場にいたころ同門でしてな。それがそれ、五郎蔵が申した清水源兵衛ですよ」
「何・・・・」
「子供にしては筋がよかったとおぼえています。私も筋がよかった」
「そんなことは、どうでもよいわ」
「ですから・・」
と、やっと話の全貌がつかまれ、録之助はこれから平蔵の探索に加わるのであった。
録之助の人柄
「井関殿にも、ぬかりはございますまいかと・・・」
「いや、あいつ少々、あわて者なのでな。どうしている、録は・・・」
「すこし前に、眠られましたようで」
「暢気者よ。土の上でも草の上でも眠れる男じゃ」
五の巻
「おお、録さん腹ごしらえをしたかえ?」
「ええ、こんなもんです」
ふくらんだ腹のあたりを、ぽんぽんと叩いて見せたものだから、久栄がたまりかねて吹き出してしまった
「相変わらず、大喰らいはなおらぬものとみえる」
「大食いするには、乞食坊主がいちばんで・・・」
「三日やったらやめられぬ、か・・・・」
「えへ、へへ・・・・」
六の巻
「あんた、亡くなられたことになるので?」
「そうとも」
「では、葬式を出すのですか?」
「そんなことをしてみろ、他の盗賊どもが大よろこびで騒ぎ出すではないか」
「なるほど」
「だから、お前の世話にはならねえよ」
「でも、死んだことに・・・?
「どこへ、身を隠すのです?」
「そうだのう。うむ、乞食坊主にでもなろうか・・・・」
「そうなりゃあ、私が、お師匠さまだ」
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壱の巻
「うるさいね。だれだ?」
「おれだ。本所の銕だよ」
「あれまあ」
「まさか、夜這いに来ておくんなすったのじゃあないだろうね」
弐の巻
捜査に惜しみなく協力したお熊
「これ、婆さん。お前には褒美を出さねえといけねえ。何がいい。のぞみのものをいってごらん」
「そんなに大きくでていいのかえ、銕つぁん」
「いいとも。さあ、いってみろ」
「いっぺん、しみじみと抱いてもらいてえよう」
沢田も松永も毒気をぬかれて、おもわず手にした箸を落とす
「おお、いいとも。婆さんの歯抜けの口を吸ってやろうか」
お熊は気を悪くしたらしく、平蔵を睨みつけている。
17巻鬼火「見張りの日々」
参の巻
うなされて目が覚めたおまさに向かって
「よっぽど悪い夢を見ていたらしいねぇ」
「あ、夢・・・・」
「今の声は凄かったよう」
「そ、そんな声を出してたのですか、私・・・・」
「出したとも。何しろ、このお熊の目がさめてたくらいだからね」
「まあ・・・・」
「凄い声で銕つぁん、銕つぁんと叫ぶものだから・・・・・・」
「嘘」
「あいよ、嘘、嘘。みんな嘘の皮さ」
23巻「炎の色」
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*顔をあわせりゃ*
一の巻
「へっ。こんな彦十みてえな死損いの守役は、ごめんこうむりてえね」
「何をぬかしゃぁがる。腐れ鰯の骨婆ぁめ!!」
*やっぱり彦十の守役*
二の巻
「彦十とっつぁん、まだ生きてたのかよ」
「冗談いうねえ。半月ほど前に、二つ目の橋で擦れ違ったばかりじゃあねえか」
「長谷川さまよう。こんあ鬼婆ぁのそばで夜を明かすなんざ、どうも危ねえなあ」
「うるせえ」
「死に損ないめ、さっさと消えやがれ」
「へっ、笑わせるねえ。こっちの躰には、まだ肉がついてらあ、てめえなんざ、軍鶏の抜け殻だ」
「なんだと・・・」
17巻「鬼火」
お仕事中の彦十。笹やを通り係り、熊に目配せをする。
三の巻
「なんさよう。くたばりぞこないが、色目なんぞ遣やあがって・・・」
17巻「鬼火」